2006年05月02日

ゆっくりと目を開いた


それは深い深い水底で、一点の光だけが浮かんでいた。
私はそれに手を伸ばすと、それを掴もうとした手とを見比べた。
光に手は届かなかった。

不思議と息苦しさを感じないこの深い深い水底は、
いつのまにか黒い闇に包まれつつあった。
誰かが私の名前を呼んでいるような、鈴の音に似た音が聞こえた。

私は開かぬ口から小さな泡を吐き出した。
私はようやく苦しみを得た。そしてただならぬ恐怖を身に感じる。


鈴の音は鳴り止まない。
光はどんどんと小さくなっていく。
闇はまだ私を飲み込もうとその広がりを見せ付けている。
もがくことのできない、私の細く頼りない腕を誰かが掴んだ。


「もう大丈夫だから」
彼なのか彼女なのかは分からないが、その人はそう言った。
そして私を望まぬ深い闇の中へと引きずり込んでいく。


闇の中に落ちた私が見たものは、あたり一面にある光の水面。
私は闇の中を抜け落ちて、光の園へと足を踏み入れていた。
あの光はなんだったのか?悪魔の誘惑だったのだろうか。

私は、天国や地獄が必ずしもイメージ通りのものではないと、
改めて知ることとなった。


だが、ここは一体どこだろう?


「ここは、世界のはずれ」


天国でも地獄でもないと言うのか。
私は首をかしげて光る水面を覗き込んだ。
そこには、多くの管を体につけたもう一人の私の姿があった。
よくある幽体離脱状態なのだろうか、と、私は頭をかく。


「天国や地獄なんてものはないよ、天国も地獄もここだから」



形は人のそれだが、顔も姿もはっきりしない光の塊は私に言った。
そして奥でのたまっている暗闇を指差す。


「ほとんどの人はあそこで命を終える、輪廻からはずされてしまうんだ」


おそらく無限に続くあの苦しみと恐怖を味わいながら、漂うことになるのだ。
私はそれを想像してぞっとした。
では、何故私は助かってしまったのか?



「君がまだ死んでいないから」


どのような基準でそうなっていうのかは分からないが、
そうかと理解する以外ないだろう。私は何も知らないのだから。



「君が3度目の死を迎えたとき、改めてここに呼ぶよ」



光の塊はそういうと、私を光る水面に突き落とした。
銀色の光のような渦に飲み込まれ、目を覚ますと白い病室。
長い夢を見ていたような、しかしハッキリとした。
私は目覚めた体が動かないのを、不機嫌な面持ちで外を見た。




人は3度死ぬ。3度目に生きた一生の業を計算される。
それがクリアされていれば転生できる。クリアできていなければ死ぬ。
人は物理世界で3度死ぬ。だけど4度目は苦しみが永遠に続く。
これを地獄といわず何と言う。

天国も地獄も同じ場所。

生と死は紙一重。


私は自分の死を、ごまかして生きられなくなった。
よかったのか悪かったのか、私はまだ生きている。
posted by ユーキ at 15:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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