2006年06月04日

気狂いの歌




ボー―――――・・・・・・ンンン・・・


ボォォォー―――――――――・・・・・・・ンンン

きちがいをお探しですか、どうぞお入りくださいこの中にいるでしょう、どうぞどうぞさあどうぞ、なぁにお気になされないでどうぞお入りください、ここには色んなものがございます、死体から赤ん坊までさらには人の心まで置いてございますさどうぞどうぞきちがいをお探しでしょうどうぞどうぞ、それはもうしばらく経てば現れることでしょうどうぞ気長にお待ちください、その間といっては何ですがお好きなように中をお歩きください、面白いものがございますからどうぞごらんなさい、きっと気に入るものもございますでしょうから、もっと近づいて触れてみてもよろしいですよ、けして危ないものではございません、ですからどうぞご遠慮なさらず中へ中へとお入りください、お入りください・・・。

あの男女がお見えになりますか、あの口論を続けている男女の姿がお見えになりますか、お見えになりましたか、面白いものでしょう、ああやってずうっと口論しているのです、一度も休まずにですよ、ずうっとです、二人とも眉間に皺を寄せて醜く顔を歪めて唇を尖らせているでしょう、醜い言葉は人をより醜くするといわれますが正にこの通りでございます、見てお分かりになるでしょう、内容を少し拝見してみましょうか、なぁに気付かれることはありませんからご安心なさいませ、あの二人はこうやってずうっと休まることなく永遠に口論を続けているのですから、こちらなぞに気を配っている暇などないのでしょう、ですからどうぞこちらへいらっしゃって、このイスに腰掛けてみてくださいませ、みるみる会話が耳の中へ脳の中へと飛び込んでまいられるでしょう、嫌になったらイスをお離れになってくださればよろしいですよ、それではしばらくお静かに・・・。

何もわかってないくせに分かったフリをするのはやめてよ、その思い違いがどれだけ私のことを苦しめているのか分かっているの、分かっていないでしょうあなたの存在そのものが私を苦しめているのよ、その苦しみを愛だと彼方は言うのかしら、どれだけ私の虚像を抱きしめれば気が済むのかしら、いい加減私の本当の姿くらい目を逸らさずに見たらどうなの、私のほうを見向きもしないで愛してるだなんて吐き気がするわ、もう彼方とはやっていけないと何度言ったら理解できるの、これ以上私に干渉しないで、私の目の前から消えて頂戴いなくなって頂戴よ、もうこれ以上は私苦しみたくないわ、それに何よその苦しみを越えて愛をだのと、彼方が与えるの愛でも何でもないわ、苦しみよ、悲しみよ、虚しさよ、何も私には返ってこない、私がどれだけ尽くしても彼方何も返してくれない、返ってくるのは要らない物ばかりではないの、気付きなさいよ、いい加減にしてよ、どれだけ私の首を締めれば気が済むというの、頭がおかしくなりそうよ。

女の叫びを男は黙って聞いている、そして一瞬止まる彼女に手を触れようとするが彼女は厳しい剣幕でその手を振り払い睨んだ。男は悲しそうな顔をするほほには涙の跡まで残っているほど、男は彼女を愛してはいるものの彼女の望むだけのものを与えられずに彼女に飽きられていた。すがるように何度も彼女のいう言葉に相槌を打ち、分かった様に頷く、しかしその内容の半分以上は学習していないのが本当のところなのだ。それが彼女にとって最悪のことだというのに・・・。


面白いでございましょう、どちらも何も見えていないのです、男の愛は彼女にとって幸せではありません、ですが男はその愛を彼女以外に渡したくないというのです、これだからすれ違い思い違いどうにも相容れぬ、悲しく愚かな二人の口論はこれから咲きも永遠に続くのでしょう、これが人間と云うものなのですか、これぞきちがい他なりませぬ、そうは思いませんか?

きちがいでない人間などこの世のどこにもおりません、そう今これに在る貴方でさえもきちがいなのです、失礼極まりないのでございますが、私はそうと信じて疑いません、不確かなものばかり追いかけ、それを掴み損ね転がっては体を傷だらけにしてそれでも不確かなものを追う、これをきちがいと呼ばずに何と呼べばよろしいでしょう?


さーァ、さーァ・・・・・・・お時間でございます。探し物は見つかりましたね、きちがいでございましたね、どうぞどうぞ連れて帰りなさいませ、そのきちがいを、その心を、その自らの姿をお持ち帰りなさいませ・・・。
posted by ユーキ at 05:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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