2006年07月07日

鳥。

ある日、鳥籠の中の鳥は、
外の世界に魅了されて空に飛び立つ。

鳥籠は何度も言った。
「行かないで、一人にしないで」

だけど鳥は飛び立った。
真っ青な空はなんて気持ちがいいんだろう。

それから鳥は、別の鳥と出会う。
相手の鳥は見た事もない綺麗な羽根で、
自分の何色もない真っ白な羽根が、
なんだか哀しく見えました。

けれど綺麗な羽根の鳥は言いました。
「あなたの白い羽は美しい、まるで光のようだ」

綺麗な羽根の鳥に、真っ白な鳥は恋をしました。

けれど外の世界は厳しくて、
あっというまに衰弱してしまった白い鳥。
激しい雨に打たれ、よろよろと木の枝に止まる。

綺麗な羽根の鳥には申し訳ないけれどと、
先に行くように促して、うとうとと眠りについた。

白い鳥が夢見たのは、あの鳥籠でした。
黒とも白とも言えない銀色が、
朝の眩しい光に輝くのが、白い鳥は大好きでした。

鳥は一夜をその木で過ごすと、
雨の上がった青い空を見上げました。

「鳥籠に帰りたい」

白い鳥は、ふっ、とそう思いました。
あの綺麗な羽根の鳥は、本当に素敵だったけど、
今はそれより、家に帰りたい。

白い鳥は羽根を広げ、よろよろと飛び立ちます。
けれど何処を飛んでも、あの場所には帰れない。
鳥は何日も何日も眠らずに、
羽根を広げて飛び続けました。

真っ白な羽根は徐々に外気の汚れに染まり、
その羽根がやがて灰色になる頃、
やっと、あの場所へたどり着きました。

そこには変わらない鳥籠が一つ。

「どこへ行っていたの?」
「ちょっとそこまで」
「随分と汚れたね」
「そう?」
「あんなに綺麗だったのに」
「いいんだ、だって、ほら!」

鳥籠も残念そうに訴えました。
だけど灰色の鳥は決して哀しそうにはしません。
鳥は雨露を羽根に少し垂らし、毛繕いをしました。

そして、朝の光に照らすと、
鳥籠と同じ銀色がきらりと光りました。


「君とおそろいじゃないか!」


鳥は満足げに言うと、羽根を思い切り広げた。
朝の光に二つの銀色が光り輝いたのでした。


〜Fin〜
posted by ユーキ at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月04日

気狂いの歌




ボー―――――・・・・・・ンンン・・・

カッチ・・・カッチ・・・カッチ・・・
posted by ユーキ at 05:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月02日

ゆっくりと目を開いた


それは深い深い水底で、一点の光だけが浮かんでいた。
私はそれに手を伸ばすと、それを掴もうとした手とを見比べた。
光に手は届かなかった。

不思議と息苦しさを感じないこの深い深い水底は、
いつのまにか黒い闇に包まれつつあった。
誰かが私の名前を呼んでいるような、鈴の音に似た音が聞こえた。

私は開かぬ口から小さな泡を吐き出した。
私はようやく苦しみを得た。そしてただならぬ恐怖を身に感じる。


鈴の音は鳴り止まない。
光はどんどんと小さくなっていく。
闇はまだ私を飲み込もうとその広がりを見せ付けている。
もがくことのできない、私の細く頼りない腕を誰かが掴んだ。


「もう大丈夫だから」
彼なのか彼女なのかは分からないが、その人はそう言った。
そして私を望まぬ深い闇の中へと引きずり込んでいく。


闇の中に落ちた私が見たものは、あたり一面にある光の水面。
私は闇の中を抜け落ちて、光の園へと足を踏み入れていた。
あの光はなんだったのか?悪魔の誘惑だったのだろうか。

私は、天国や地獄が必ずしもイメージ通りのものではないと、
改めて知ることとなった。


だが、ここは一体どこだろう?


「ここは、世界のはずれ」


天国でも地獄でもないと言うのか。
私は首をかしげて光る水面を覗き込んだ。
そこには、多くの管を体につけたもう一人の私の姿があった。
よくある幽体離脱状態なのだろうか、と、私は頭をかく。


「天国や地獄なんてものはないよ、天国も地獄もここだから」



形は人のそれだが、顔も姿もはっきりしない光の塊は私に言った。
そして奥でのたまっている暗闇を指差す。


「ほとんどの人はあそこで命を終える、輪廻からはずされてしまうんだ」


おそらく無限に続くあの苦しみと恐怖を味わいながら、漂うことになるのだ。
私はそれを想像してぞっとした。
では、何故私は助かってしまったのか?



「君がまだ死んでいないから」


どのような基準でそうなっていうのかは分からないが、
そうかと理解する以外ないだろう。私は何も知らないのだから。



「君が3度目の死を迎えたとき、改めてここに呼ぶよ」



光の塊はそういうと、私を光る水面に突き落とした。
銀色の光のような渦に飲み込まれ、目を覚ますと白い病室。
長い夢を見ていたような、しかしハッキリとした。
私は目覚めた体が動かないのを、不機嫌な面持ちで外を見た。




人は3度死ぬ。3度目に生きた一生の業を計算される。
それがクリアされていれば転生できる。クリアできていなければ死ぬ。
人は物理世界で3度死ぬ。だけど4度目は苦しみが永遠に続く。
これを地獄といわず何と言う。

天国も地獄も同じ場所。

生と死は紙一重。


私は自分の死を、ごまかして生きられなくなった。
よかったのか悪かったのか、私はまだ生きている。
posted by ユーキ at 15:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月28日

少女飼育日記。




私は面倒なことが大嫌いで

周りに流されて楽に生きることしか考えていない人間だった。

私は自分から動くことが苦手で

とりあえず相手の動きを真似てみせる人間だった。

ある日それがバレてしまった。

私は世間の流れから捨てられて漂うことも出来なくなってしまった。



私は無気力に漂うことしか出来ない。

何もしなくていいならそれ以上のことはない。

親はもう私の面倒を見る気はない。

パラサイトという手段も断たれてしまった。



ある日そんな私を愛する人が現れた。

無条件に愛を私に与えることで自分を満たす人間だった。

彼の愛は随分と重く大きく私の両手じゃとても持ちきれなかった。

耐えかねた私は、彼に話を持ちかけた。




「私は今日から貴方のものです、私はもういません、私はものです」



それから私は彼と衣食住を共にすることになった。

不便なことはないし、ここにいれば安全だ。

面倒なこともしなくっていいし

ただ猫のように彼に甘えるだけで私は生きていける。



そう。

私はペットなのだ。

彼に飼育されている。

いつ飽きられるか分からないけれど。


まぁ

考えるのも面倒だから。

その時になったら考えるとしよう。




私は彼のペット。

彼の帰りを玄関先で待たず、

機嫌がよければ擦り寄る猫。

彼が構ってくれば相手をし、

彼が私を愛してくれたら「にゃあ」と鳴く。


ただただ漂うだけの

私の人生。
posted by ユーキ at 16:07| Comment(1) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月24日

遠い街並み






この丘から見える、広大な都市。
機械で出来た冷たい街。
住人のほとんどが体に機械を移植していて、露出した肌から機械の管が覗いていた。
その他にもたくさんの高機能AIを搭載したアンドロイドが街の中に馴染んでいた。
まるで同じ人のように扱われているアンドロイド。
感情を表情に出すことが出来なくても、彼らは必要とされる能力があった。

いつしか俺はこの丘から都市を眺めることが好きになっていた。
たくさんのビル街の間に人やアンドロイドがひしめき合っているのを見るのが習慣になった。



「オニイサン」



俺はそのフィルターを通して聞こえる声に振り向いた。
そこには2M近くあるだろう巨体をかがめて俺を見ているアンドロイドがいた。




「悪いが、俺は生物学上「お姉さん」になる」
「・・・ソレハ、シツレイ」
「いや、よく間違えられる」



俺たちはそんな他愛も無い会話をしながら丘の上から街を見下ろした。
恐らく「彼」であるそのアンドロイドは、俺の許しも得ず俺の隣に腰を下ろす。
そして巨体からラヂヲのように音楽を流し始めた。



「トロイメライ・・・・?」



聞き覚えのあるクラシック。シューマンのトロイメライだ。
だが音響はあまりよろしくなく、まるで壊れたレコードのように途切れ途切れ。
サー・・・・サー・・・・・・と風が吹くような雑音と共にしめやかに流れていく。




「オスキデハ アリマセンデシタカ?」
「いや・・・・・」
「ソウデスカ、ヨカッタデス」
「君は・・・・・」
「ハイ?」
「何でここに来たんだ?」



ピタリとトロイメライの音楽が止んだ。巨体もじっと街並みを見下ろしたまま。
俺は音のしなくなったアンドロイドを見た、彼からも音がなくなっていた。

その後俺は知った。

この丘の近くには使われなくなったアンドロイドが廃棄される場所があるのだと。
誘われるように俺の元へ彼が来たのは、何故なのかはわからなかった。
ただあの時聞いた、壊れたレコードから流れるようなトロイメライ。
ときたま捨てられたアンドロイドの山の中から、聞こえてくる気がした。




「・・・・・お前も、寂しかったんだな」




自分に言ったのか、彼に言ったのか。
その答えは、夕闇の中へと消えていった。


posted by ユーキ at 21:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月14日

優しい




ただ そこに あって



ここに 貴方が いて



傍に ぬくもりが あって



私は 泣いていた




posted by ユーキ at 19:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月13日

〜れだみ学園〜






そこは 地図にも忘れられた山奥の村・・・・・

そして 豊かな緑に囲まれた木造校舎・・・・・

ここは 私立れだみ学園

私たちの舞台である・・・・・・!





14.png

早弁少女アイト VS へたれ教師吉良

「なぁアイト・・・・お前、俺の授業受ける気ある?」
「(もぐもぐもぐもぐ」

こんなネタばっか思いつくorz



スケバン少女、ユーキ
学園アイドル、ありゅ
早弁少女、アイト
恋する優等生、楓

無愛想な司書教諭、だいぴー
へたれ教師、吉良
変態学園長、にぼし



今のところキャラがこんな感じになってるんですが(ぇ


絵茶でれだみ学園祭してぇなぁ。
posted by ユーキ at 12:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月10日

ねこ。




朝、気がつくと。
私は猫になっていた。

茶色のトラ模様、少し眺めの体毛。
柔らかい肉球を見ると少しピンク色だった。
どうやら私は、家猫らしい。


私がぐーっと背伸びをすると、
私の下がふかふかと柔らかいことに気付く。
ふかふかと手のひらで押しつぶしていると、
どこからかクスクスと笑う声が聞こえた。

「おはよう」

私は「おはよう」と返す、「にゃー」としか言わないけど。
どうやら彼は私の飼い主のようだ。


「ちこ、ごはんしようか」

ちこ、それが私の名前らしい。
悪くも無ければよくも無いというか、普通の名前だと思った。
しかし、私が思うに彼は見覚えのある顔。
どこかで見たことのある顔だ。

いや、見たことはあるだろう、
きっと今までずっと一緒に暮らしてきていたのだから。


「ちこ?」


彼が様子が違う私に語りかける。


「どうした?」


優しい声だ。
私は自分の胸の鼓動が早く打つのを感じた。
あぁ、そうだ、彼は、
以前私が人間だったころに好きだった人だ。

そうすると私が人間だったころの思い出がぶわーっとよみがえってきた。


私は逆立つ体の毛をなめた。



「ちこ?おいで」


彼の手招き。


「ちこ」


私を呼ぶ声。



私は猫。
今は猫。
だから、何も考えずに猫らしくしていればいいのだ。
猫らしくという行動がいかなるものかは置いておき、
今は彼の元へ行くのが得策であろう。

彼は擦り寄る私を抱き上げると、
なるべく力を入れないようにやさしく抱きしめた。
無意識にのどがごろごろと鳴る。
今なら猫の気持ちがわかる気がする。



「よしよし」



彼の名はわからない。
けれど彼を知っている。
思い出せはしないけど確かに彼を覚えてる。

彼の手のひらを、覚えている。



彼があぐらをかくと、そこは私の特等席になる。
ちょこちょこと歩み寄り何食わぬ顔で背を丸めた。
その丸まった背を彼の手のひらが撫でる、心地よい。
少しゴツゴツした男らしい手のひら。



もうしばらく彼のそばでこうしていたい。
だけど、私が眠りについて目を覚ますころには、
私はいつもの自分のベットの上にいた。



「・・・ちこ」



私は猫の名前を呼ぶ。



「ちえこ」


自分の名前を呼ぶ。



そういえば彼が言っていた。
「うちの家の猫の名前、お前の名前を縮めてつけた」と。
愛着のある名前だからと、はにかんで笑っていた。






「おはよう」



彼が朝私の家の前にやってくる。
毎朝学校に行くときはこうして迎えに来てくれるんだ。



私は支度を終えて、玄関を出る。
彼が鼻の頭を赤くして待っていた。
外は肌を突き刺すような寒さだ。



「おはよう、ちえこ」


彼がもう一度言う。


「にゃあ」


私は少し笑って、返事をした。
posted by ユーキ at 18:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月02日

虚無





今すぐにでも首絞めて殺したいくらい好きだよ。



あの子は笑っていった。


「は・・・?」
「うん、だから」
「・・・俺、お前に何かしたっけ?」



にじりよってくる彼女から逃げるように後ずさり。
それでも彼女は淡い笑みを絶やさず俺の元へと歩み寄る。
どうしたのかな、とかなんかどうでもいい考えもよぎる。

とりあえず身の危険を感じずにはいられない。




「なんで逃げるの?」
「いや、・・・だって・・・・・・」
「私のこと嫌い?」
「嫌いじゃないけど・・・・」
「じゃあ好き?」
「そうでもないけど・・・・」
「私は好き」



何をそんな惜しげもなく、その言葉を口に出すのだろうか。
彼女の白くて細い足が、すらーっと伸びてくる。
俺はただ彼女の白い足が目の前に来るのを目を瞑って耐えた。



「怖い?」
「ちょっと・・・」
「なんで?」
「いや、だって」
「こっち見てよ」



彼女は少しあせりを交えたような声で言った。
「ねえ」と小鳥のさえずるような声で俺を呼ぶ。
白くて細い腕が、俺の首筋にまきついて離さない。



「ねえ、好き」
「うん」
「好き?」
「わからない」
「ねえ」
「うん」
「好き」
「うん」



俺はぎゅっと瞑っていた目を開いた。
目の前に真っ黒な瞳の彼女が見えた。
はらはらと大粒の涙を流しながら、何度も「好き」と言った。

彼女が何を求めているかは俺にはわからない。




「私のこと好きって言ってよ」
「本当の好きじゃないのに好きなんて言えないよ」
「じゃあ本当の好きってなんなの?」


彼女は細い腕を、俺の首からはずして、
小さな手のひらを俺の両頬に当てた。
真っ黒で長い髪の毛が白くて細い腕や脚にかかって綺麗だ。



「ねえ、・・・・好き?」
「わからない」
「私は、好き」
「うん」
「私のこと、好き?」
「わからない」
「好きだよ、ずっと」



俺の胸に寄りかかるようにして目を閉じた彼女。

俺は何も描かれていない真っ白な本を読むのをやめて、
彼女の髪の毛を優しく撫でた。


好き、わからない、好き、わからない、好き、わからない。


だってここには俺と君以外いないから。





―― 私のこと、好き?
posted by ユーキ at 02:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年09月25日

MyLover


綴りが合ってるかどうかなんて気にしてはいけない。


優しくするな
泣きたくなるだろ


そう言って、困った顔して微笑んだ。
あの子はまだ自分を一人だと思っている。
私の心の中には、少なくとも3人の人間がいる。

ある意味、多重人格だと例えてもおかしくはない。

今メインに出ていて、この文を書いているのは、
通称「理性」。
このような考え事をしているときは「メイン(理性)」として、
外に出てきている。

また、あの子が駄々をこねている。

「触るな、どっかに行ってくれ、そんな情けはいらないんだ」
そんな風に、私に背を向ける。
キョロキョロと、瞳が色んなところを上下左右見ている。
あの子は自分のことを素直に言えない。

あの子にどんな言葉を与えても、意味が無い。
だから私は、後ろから抱きしめてあげることしか出来ない。

「優しくするな、・・・泣きたくなるだろ」
「泣けばいいじゃん」
「無理だよ、もう忘れたよ、泣き方なんか」
「そっか、・・・そうだね、じゃあもう少しこうしてようか」
「・・・うん」

あの子の体はとても冷たい。
そしてこの闇に包まれた空間もとても冷たい。
暖かい場所に行こう、でも、あの子はここから外に出れない。


「元気出た?」
「ちょっと」
「そっか、よかった」
「うん」
「ごめんね」
「ううん」
「行こっか」
「・・・うん」


あの子の手を握り締めて、
ゆっくりと歩き出す。
ここから外へ。


「さよならだね」
「うん」
「またね」
「うん」


あの子はまた困った顔をした。
私は先に一歩外へ踏み出す。
あの子も、ゆっくりと足を踏み出す。


「泣いてるの・・・?」


あの子は、少しはにかんで笑いながら、
「ごめんね」と言って消えていった。

あの子は「欝」「妬み」「悲しみ」「苦しみ」、
何もかもを背負ってくれた優しい子。
またね、ばいばい。

今度は失敗しないから。
またね。またね。


今度はもっと、優しい風を送るから。
どうか元気で。

またね。
posted by ユーキ at 03:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年09月24日

 ・ ・ ・ 。


おわあ ああ

赤子が泣いている
目のくぼんだ母が起き上がり
赤子を抱き上げた

ああ おわあ あん

ようしようし 泣くな

やせこけた腕が
肉のついた赤子を抱きしめる
硬く長い髪を揺らして
ろうそくの明かりのもと

ゆら ゆら


あぁ ぎゃああ おわああ

いいこだから ようし ようし

泣き止まぬ赤子
悲しそうな顔で母は
赤子のほほをなでる

ふと泣き声が止まった

ねんねしよ
ねんねしよか

冷たくなった赤子を抱えて
母は薄い布団に包まり眠る

冷たい風が吹いている

動かなくなった母子二人を包むように。
posted by ユーキ at 15:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年09月15日

とある人間のお話。

そこまで綺麗じゃないよ、俺は。
眩しくて仕方ない。


誰にも傷つけられないように守っていたかった。
傍にいて何とかしてあげたかった。
よく人に足をひっかけられて転んでいる姿を見ていた。
だから助けてあげたかった。
手を差し伸べてあげたかった。

でもね
牙を研いで強くなって近づけないように戦っていたら、
今度は俺の足をひっかけにくるの。
それはそれでよかった。
代わりに傷つくことで、あの子が笑ってられるなら。

背中を合わせて戦うことが理想であるだろうに。
守ってばかりいた。
いつのまにか後ろには、縮こまったあの子しかいなかった。


怯えていたのだろうか。
私に。
恐れていたのだろうか。
私を。


怯えているのだろうか
今も



たくさんの毒を吐いて、
たくさんの傷を作って、
たくさんの涙を流して、
たくさんの声を聞いた。

いつのまにか、手は動かなくなっていた。
牙も、折れていた。
守りたかったはずのあの子は、
もうそこにはいなかった。

何のために戦ってきたのだろう。
むせ返るような胸の熱さ。
この気持ちはどこへやれというのでしょう。
どこへやれるのか。


あの子は綺麗だったから。
とても綺麗だったから。
あの子が汚れるのが怖かった。
だから守っていたかった。

何を言われても、説教されたって、罵声を浴びたって、
傍にいたいと思っていたのに。

何か全てを守れるほど、
何か全てを許せるほど、
私は強くもないし綺麗じゃない。

あの子は

何か全てを愛せるくらい、
何か全てを許せるくらい、
強くて綺麗だった。


憧れていたのかもしれない。
その姿に。

その光が、今も眩しくて仕方がない。
遠く離れた場所に、今も輝く光。


私はただ、
無言でその光に背を向けた。

どうかこの汚れた私を、その光で照らさないで、と。
posted by ユーキ at 21:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月19日

夏。

ミィーンミンミンミン・・
ジリジリジィィー・・・

かんかん照りのお天道さんが真っ青な空に浮かび上がっている。
入道雲が空のずーっと端っこまで続いて、夏らしさを物語っていた。

額ににじみ出た汗が、ポタリと手の甲に落ちる。
今年の夏は暑い。

麦藁帽子を深くかぶった子供が、虫捕り網を振り回して走っていく。
なにかとれたのだろう、嬉しそうに虫かごを掲げた。


「あんちゃん、スイカ食べりぃ、少しは冷えると思うから」
「うん、ありがとう、おばさん」


僕は今、親戚のおばさんのいる田舎まで来ている。
中学校最後の夏休みは、とても長く短く感じる。
両親は二人でどこかに旅行に行っていて、

行く気のなかった僕は、この通り。預けられていると言うわけだ。
少々過保護ではないだろうか。
中3なんだから自分の世話くらい自分で出来る。

まぁ何かあった時の事を考えたら、
正しい判断だと言えよう。


「あんちゃんあんちゃん」
「なんだ、きー坊、虫捕りはやめたのか?」
「うん、今から海に行くんだ」
「危ないから気を付けろよ」
「あんちゃんも一緒に来てくれればいいよ」


きー坊、もとい、聖(きよし)は僕のいとこにあたる男の子だ。
今年で確か、10歳くらいになるはず。
太陽の光を全身に浴びて真っ黒に焼けた肌に浮かぶ白い歯が、
健康的なイメージを焼き付けている。

きー坊は少し遠慮がちに「だめ?」と小声で聞いた。
僕はもう一度、真っ青な空を見上げて。


「いいよ、別に」


と答えた。
きー坊は嬉しそうに、また真っ白な歯を見せて笑った。


「ところで、お前だけってわけじゃないよな?」
「うん、みぃちゃんと、ゆうくんも来るよ」
「ん?なんだお前、この間ゆうと喧嘩してたんと違うんか」
「もう仲直りしたもん」


きー坊が、ぷいっ、と頬を膨らませてそっぽを向いた。
ずんずんと緑色に茂った庭を突っ切って、振り替える。


「おかーん!!海行ってくっからー!!」
「気ぃつけんといかんよー!!」
「わかっちょぅ、あんちゃんも一緒やてー」
「ほうか、ほんなら、よろしくな、あんちゃん」
「うん、なるべく危ない事はさせないようにするから」


僕はおばさんに礼をして、きー坊のあとについて行った。


真夏の青い空が、僕ときー坊の影を色濃くしていた。
posted by ユーキ at 14:50| Comment(0) | 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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